スラッシュ水素用高精度密度計、流量計

スラッシュ水素用高精度密度計(固相率計)、質量流量計の開発


 液体水素などの単相液体では、液体の温度、圧力、体積流量を測定することにより密度や質量流量が容易に算出できる。スラッシュ水素の密度は固相率で変化するので固相率を直接測定する必要がある。

 高精度な密度測定と質量流量測定を目的とした独創的で新しい構造の密度計と質量流量計の開発を行った [14, 15]。いずれも固相率が変化するときのスラッシュ水素の比誘電率変化、マイクロ波伝播特性の変化を利用する。

スラッシュ水素用高精度密度計
静電容量型密度計
 液体中に固体粒子が混在する場合、静電容量型密度計では高精度化を図る上で固体粒子の挙動を考慮した独創的な電極構造が重要となる。静電容量型密度計として単相液体用平行平板型(従来型)と開発したスラッシュ水素用平板・円筒型密度計の測定原理図(構造)を示す。

 平板と2個の円筒を組み合わせた平板・円筒型は固体粒子が電極間に入り易く、構造が簡単で高精度が得られる(特許取得済)。静電容量型密度計の静電容量 Cと比誘電率 εの関係は、予め測定した静電容量係数 C0と無効静電容量 Cdを用いて上図に示す関係式がある。固体水素と液体水素の比誘電率 εsεlからスラッシュ水素の体積固相率を算出し、固体水素と液体水素の密度からスラッシュ水素の密度が測定できる。

 下図の実験結果に示すように、平行平板型は固相率が大きくなると固体粒子が電極内に充分入ることができず測定精度が悪くなるが、平板・円筒型は密度に換算して±0.5%の高精度が得られた。スラッシュ窒素では密度に換算して、下図に示すように±0.25%の高精度を得ている [5, 14, 15]。スラッシュ窒素の場合、固体、液体の非誘電率、および固体、液体の比誘電率差がいずれも大きいことにより測定精度が向上している。


マイクロ波型密度計
 マイクロ波型密度計は測定原理図に示すように送信、受信用マイクロ波アンテナで構成され、液体水素、スラッシュ水素中を伝播するマイクロ波の各々の位相変化の差 ΔΦ= ΔΦ2-ΔΦ1と、液体水素、スラッシュ水素間の比誘電率変化 Δεには図に示す比例関係式がある。
 Ellerbruch [53] は従来使用されている導波管とホーンアンテナを組み合せてスラッシュ水素の密度を測定している。この方法では、導波管とホーンアンテナ内部にスラッシュ水素が侵入しタンク内の密度が正確に測定できない欠点がある。ガンマ線を使用して測定した結果と比較すると、約 2%の密度測定誤差が報告されている。下図にマイクロ波を導入するために使用した平板アンテナと極低温同軸ケーブルを示す。平板アンテナは開口部を持たないため、Ellerbruchの方法で発生した測定誤差を低減できる。


 密度測定試験ではタンク内壁でのマイクロ波の反射を低減するため、内壁に電波吸収材を設置した試験についても実施した。マイクロ波吸収材はポリウレタンフォームにカーボンを含侵したものである。スラッシュ水素製造時の液体水素減液量から計算した固相率と測定した固相率を比較した結果を下図に示す。タンク内径が 240 mmと小さいため、内壁で反射するマイクロ波の影響を受けて固相率が小さい場合には測定誤差がやや大きくなっている。電波吸収材を設置した場合は、計算結果と比較すると密度に換算して ±0.5%以内の測定精度が得られた [15]。


スラッシュ水素用高精度質量流量計
 Ellerbruch [53] はスラッシュ水素の質量流量を測定するため、マイクロ波によるドップラー効果を利用した流量計を開発している。この方法では、導波管とホーンアンテナが配管内に対向して設置されており、固体粒が内部に侵入するのを防止するためテフロンが充填されている。流速測定誤差は約10%と報告されている。
 我々が開発した静電容量型、マイクロ波型質量流量計は測定原理図に示すように、配管内を流動するスラッシュ水素の密度と流速を測定して質量流量を測定する方法である。流速測定にはスラッシュ水素が配管内を流動する際、密度がわずかに変動することに着目している点に独創性がある
 流れに沿った配管の2箇所に静電容量型、マイクロ波型(導波管)の密度計を設置して LCRメータ*、導波管で密度を測定する。次に、2箇所の密度測定信号の相互相関関数が最大となる遅れ時間 τと密度計の設置距離 Lから流速 Vを算出し質量流量を測定する。
 * LCRメータ:インダクタンス(L)、静電容量(C)、抵抗(R)が測定できる。 ここでは、静電容量のみを測定。

静電容量型質量流量計
 静電容量型流量計の測定原理と構造を下図に示す。静電容量型流量計はスラッシュ水素配管の流れに沿った上流、下流 2箇所に二分割した円筒型電極を密度計として配管壁に設置し、電極間の静電容量変化をLCRメータで測定する。密度は電極間の静電容量(比誘電率)変化から測定する。


 流動試験装置のタンク内で測定したスラッシュ水素の固相率および流速と流量計で測定した固相率および流速を比較した結果を下図に示す。測定回数が少ないので明確ではないが、次のことが結論として考えられる。タンク内に設置した平板・円筒型密度計の密度測定精度は約±0.5%であること、別途実施した流量計単独での密度測定試験でも精度±0.5%以内が確認されたことから、流量計の密度測定精度は約±0.5%である。流量計で測定した流速とタンク液面低下量から算出した流速には約10%の差があり、この測定誤差の主な原因は次のことが考えられる。流動試験装置のタンク液面測定誤差から予想される流速測定誤差は1 m/secで±5%程度と推定される。さらに、密度計の静電容量を測定するために使用したLCRメータの時間分解能が 0.124 secと悪く、0.124 sec以下の時間間隔で密度測定が出来ないためである。例えば、遅れ時間τ=0.496 sec の場合、単純に計算すると 0.124/0.496=0.25で最大±25%の測定誤差が予想される。従って、時間分解能の良いLCRメータを使用することにより、流速の測定精度は向上すると考えられる。


マイクロ波型質量流量計
 マイクロ波(導波管)を用いた密度、流速測定システムを下図に示す。主な構成機器はスラッシュ水素流動配管の上流、下流 2箇所に配置した円形導波管及び導波管にマイクロ波を送信、受信し、波形解析を行うネットワークアナライザである。ネットワークアナライザによる波形解析では導波管での受信信号と導波管からの送信信号の振幅比(ゲイン)を計算する。導波管内に存在する媒体(スラッシュ水素)の比誘電率εと導波管を通過するマイクロ波の伝送信号の振幅比がステップ関数的に低下する周波数(カットオフ周波数)fcの間には下図に示す関係がある。カットオフ周波数は図に示すように導波管内のスラッシュ水素の比誘電率によって変化することから、スラッシュ水素の密度測定が可能である。係数C0Cdを較正実験で決定し、流動中のスラッシュ水素のカットオフ周波数から比誘電率が求まり、三重点での固体水素と液体水素の比誘電率(εsεl:既知)からスラッシュ水素の液体と固体の占有体積比が算出でき,密度が測定できる。
 流速については、図に示すように周波数をスラッシュ水素のカットオフ周波数より小さい周波数fmに固定しても、導波管内の比誘電率変化に応じて導波管での受信信号と導波管からの送信信号の振幅比が同様に変化することから、この時に測定した振幅比を使って相互相関関数を計算し流速を求めた。この方法は、カットオフ周波数を測定して相互相関関数を計算する方法より計測時間間隔が短くできるため、流速の測定精度を向上できる。


 流動試験装置のタンク内で測定したスラッシュ水素の固相率および流速と流量計で測定した固相率および流速を比較した結果を下図に示す。測定結果から次のことが結論として考えられる。タンクに設置した平板・円筒型密度計は計測精度約±0.5%であり、流量計単独で密度測定を実施した予備試験でも精度±0.5%以内が確認されたことから、流量計の密度測定精度は約±0.5%と推定される。流量計で測定した流速とタンク液面低下量から算出した流速との差は約±5%程度である。密度計の密度信号(振幅比)を測定するために使用したネットワークアナライザの時間分解能が0.0011 secとLCRメータに比べ性能が良いため、例えば、遅れ時間τ=0.330 sec の場合、単純に計算すると 0.0011/0.330=0.003 で最大±0.3%程度の測定誤差が予想され、密度信号測定上の誤差は非常に小さい。一方、流動試験装置のタンク液面測定誤差から予想される流速測定誤差は 1 m/secで±5%程度と推定されるため、開発したマイクロ波型流量計がスラッシュ水素の質量流量を高精度で測定できることが示唆された。


 静電容量型、マイクロ波型質量流量計のいずれも ±0.5%の密度測定精度が得られた。基準流速計(液面計)の精度が ±5%であるので流速の測定精度が特定できていないが、原理的に ±0.5%程度の高精度な質量流量計が期待できる。